若松英輔『言葉の贈り物』を読んだ
読書を愛する人であれば人生のうち何度か、本に呼ばれた、といいたくなるような経験があるのはないだろうか。自分で本を選んだのではなく、書物の方から懐に飛び込んでくる、そんな経験をした人もいるかもしれない。(p97「一期一会」)
飛行機に乗って、一人で東京で本屋巡りをした。朝から晩まで観光地にも行かないで本屋を見るだけの旅。
東京のある本屋の中で、この本と出会った。初めての作家、綺麗な表紙。この「本に呼ばれた」気がした。自分で選んだのではなく、この本が懐に飛び込んできたかのような、そういう出会いだった。
『言葉の贈り物』はどういう意味だろうか、メッセージ集?と思いながら本屋でぱらぱらと読んでいたら、ある文章が目に飛び込んた。
ねる前まで読んでいて、あとは明日にしようと、残り惜しくも本を閉じ、あしたの朝を待つ心持で枕につくとか、外から家へ帰ってくるとき、帰ったら、あの本にすぐ取りつこうぜと心に思いながら、電車に乗っている、というようなことは、決して無くはない。私自身の経験にも、そのような時代があった。今から思うと、どんなに貧乏でも、どんなに辛いことがあっても、そういう時にその人は幸福なのである。(p64「読まない本」)
作者さんが印象を受けたという福原麟太郎『読書と或る人生』のコトバ。すぐレジに行ってこの本を買った。
エッセイと言っても楽しい日常生活とか漫画の話はあまりない。日常生活の中で感じたもの、感情とか読書とかそういうものを書いたエッセイ集だ。
「本とコトバを愛する者のエッセイ」。型もなく重力もない暖かい夢の中でふわふわと浮いているかのような、「感情」という風呂の中にいるかのような。そういう暖かい本であった。読んでいて、とても暖かくて気持ちいい。
エッセイごとに作者さんが選んだ本の言葉が引用されている。作者さんが選ぶ言葉のセンスが好きだ。彼の文章がとても暖かくて好きだ。
作中に出た本を読んでみたいと思う。